「それで、一体何が解ったんですか?」
マロシュさんがなんか解ったって言ってるんだけど、にこにこしてるだけで教えてくれないんだよ。
だからアマンダさんは、一体何が解ったの? って聞いたんだ。
そしたらね、僕とアマンダさんの熟成が違うのは多分僕の勘違いから来ている違いなんじゃないかなって。
「勘違いですか?」
「うん。認識のズレとも言えるかな」
マロシュさんはそう言うとね、お皿から一個ベリーを取り出して、僕たちの前に置いたんだよ。
でね、それを指さしながら、すっごくびっくりする事を教えてくれたんだ。
「ベリーはね、この大きさに育つ過程で栄養を糖分に変えているんだ。だから摘んだものにいくら熟成をかけたところでアマショウの実のように甘くなることは絶対に無いんだよ」
「ええっ! でもこれ、ちゃんと甘くなってるよ。それに僕が森で摘んできたベリーだって、熟成をかけたらちゃんと甘くなったもん」
僕がさっき熟成をかけたやつ、ちゃんと甘くなってるよね?
なのにマロシュさんは、これに熟成をかけたって甘くなるはずがないって言うんだもん。
だから僕、マロシュさんはまた意地悪してウソ言ってるんだって思ったんだよ。
でもね、そうじゃなかったんだ。
「うん、そうだね。だから僕は、君の認識の違いによってこのような現象が起こっているんじゃないかって思ったんだよ」
「えっと、認識の違いで甘くなるなんて事があるんですか?」
アマンダさんはね、マロシュさんの言ってる事がよく解んなかったんだって。
だからどういう事? って聞いたんだけど、そしたらマロシュさんから逆に質問されちゃったんだ。
「それを説明する前に一つ聞くんだけど、ルディーン君に熟成スキルを教えたのは誰?」
「私ですけど」
「そうなの? じゃあアマンダさんに聞くけど、ルディーン君にスキルを教えた時、熟成すると果物はおいしくなるんだよって言わなかった?」
マロシュさんはね、多分そんな感じの説明をしながら教えたんじゃないの? ってアマンダさんに聞いたんだよ。
そしたらアマンダさんはちょっと考えてから、そう言えばそんな感じの事を言ったかもって。
「素材の良さを引き出すみたいなことは言った気がしますね」
「うん。それにね、果物は熟成をかけると甘くなるよって教えてくれたんだ」
それにね、僕がアマショウの実とかは熟成をかけると甘くなるよって教えてくれたよって言ったら、マロシュさんはやっぱりねってうんうん頷いたんだ。
「ルディーン君は多分、熟成スキルをかけると果物はどんなものでも甘くなると思っているんだよ。だからこの本来は甘くならないはずのベリーも、ルディーン君がスキルを使った事で甘くなったんだ」
「でも、そんな事があり得るんですか?」
「実際なってるんだから、この仮説は間違ってないと思うよ」
マロシュさんはそう言うとね、さっき解析で調べたベリーがどんな風だったのかを僕たちに教えてくれたんだ。
「調べてみて解ったんだけど、坊やが熟成をかける前と後では、ベリーに含まれている糖分、甘いと感じる元となるものが大幅に増えていたんだ。これはきっとスキルを使った事により、その時に消費した魔力がこの糖分に変化したからなんじゃないかな」
「魔力が糖分に変化、ですか?」
「うん。アマンダさんも、魔石から砂糖が作れることを知っているよね?」
魔石からお砂糖やお塩が作れるのは、その中に入ってる魔力が材料になってるからなんだよってマロシュさんが教えてくれたんだ。
「この場合、その魔石も魔力の代わりにこの坊やの魔力が使われて、本来は味が変わらないはずのベリーが甘くなったって事なんだろうね」
「でも、それは変じゃないですか? だって熟成スキルにはそんな力はないはずですし」
「うん。だから認識の違いなんじゃないかって思うんだよ」
マロシュさんはね、僕が果物を甘くしようと思ってスキルを使っているから、無意識のうちに魔力を材料にしちゃってるんじゃないかなぁって言うんだよ。
それにもう一個、その認識ってののせいで僕とアマンダさんの熟成が違ってるじゃないかって。
「何か違いがありましたっけ?」
「何を言ってるんだい。この坊やがかけた熟成では腐敗が起こらないだろ? これは多分、食べ物は熟成する過程で腐っていくという事をこの坊やが知らないからなんじゃないかな」
「あっ!」
アマンダさんは熟成をかけると、それがだんだん腐ってくって知ってるよね。
でも僕はそんな事教えてもらってないから知らないでしょ?
マロシュさんはね、これが一番の認識のずれなんじゃないかなぁって言うんだ。
「スキルを使う時、アマンダさんは当然自然熟成した物を思い浮かべるよね?」
「はい」
「でもこの坊やは自然熟成したものを知らないから、単純に美味しくなったものを想像して使う。だから理想の形で熟成が発動するんじゃないかな」
マロシュさんはね、スキルってもしかすると魔法と同じようなものなんじゃないかなって言うんだよ。
だってどっちも頭の中で考えてた事が、魔力を使うとできちゃうんだもん。
「誰でも知ってるので言うとケガを治すキュアって言う魔法、これは高位の神官が使えば剣で切られた傷だろうが転んでできた擦り傷だろうが同じように治してしまうだろ? でもこれを実際に治療しようと思ったら、やり方が違うのは解るよね?」
「はい。切られた傷は包帯を強く締めるなどして傷口が開かないようにしないといけませんけど、擦り傷は逆に薬草を塗ったあて布を張り付けて、なるべく優しく包帯を巻きます」
「そう。でもなぜかどちらも同じ魔法で治ってしまう、これは使う神官がこの魔法はケガを治す魔法だと認識しているからなんじゃないかなぁ」
マロシュさんはね、スキルもおんなじで、こういう効果があるんだよって思って使ってるから効果が出てるんじゃないかなぁって言うんだよ。
「なるほど。あっ、でもそれじゃあ私がルディーン君と同じ熟成を使おうと思っても」
「覚えたてならともかく、長い間使い続けていると難しいんじゃないかな?」
アマンダさんは熟成を使うと物が腐ってっちゃうってずっと思ってたでしょ?
だからもうそう言うもんだって思っちゃってるから、今からそれは違うよって思っても遅いよってマロシュさんは言うんだ。
「それに坊やがベリーを甘くできるのには、また別の要因があると思うんだ」
マロシュさんはそう言うとね、僕にこう聞いてきたんだよ。
「もしかして坊やは、魔石から砂糖や塩を作った事があるんじゃないかな?」
「うん。僕んちのお砂糖とお塩は、みんな僕が作ってるんだよ」
その事を教えてあげるとね、マロシュさんはやっぱりって頷いてからアマンダさんにこう言ったんだ。
「すでに魔力を糖分に変えるという経験をしているこの子だからこそ、思い込みだけで本来は甘くならないベリーを甘くする事ができちゃったんじゃないかな」
「認識云々以前に、魔法が使えない私ではベリーを熟成で甘くする事はできないんですね」
アマンダさんはそう言うとね、同じ事ができたらほんとに便利なんだけどなぁってしょんぼりしちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君の熟成スキルは特殊なのではなく、実はこちらが本来の効果に近いんですよね。
だからステータスを見ても普通に熟成スキルと表記されているのですが、それだと追熟しないベリーなんかは甘くならないんですよね。
その理由は最後にマロシュさんが言っている通り、魔力が糖分に変化したからです。
ただ、マロシュさんが言っているのは実は間違ってまして、実を言うとこの世界の動物や植物などの生き物は皆魔力で構成されているんですよ。
なので砂糖を魔石から作った事が無かったとしても、大量の魔力を使えばベリーだって甘くなります。
要はルディーン君の思い込みと力技の勝利だったとw
さて、次の金曜日ですが今週は出張などの仕事の関係で書く時間が取れないので、申し訳ありませんがお休みさせてください。
と言う訳で、次回更新は来週の月曜日となります。